デジタルものづくりの職人が結集して未来のものづくりを目指す、デジタルアルティザンのオフィス&スタジオ「DiGITAL ARTISAN STUDIO」の空間デザインを担当しました。デジタルアルティザン代表取締役の原雄司さんと岩沢兄弟の兄・いわさわひとしが対談形式で拠点づくりを振り返ります。

デジタルアルティザン|DiGITAL ARTISAN STUDIO

空間デザイン

デジタルものづくり職人が結集する新拠点、
「DiGITAL ARTISAN STUDIO」。

デジタルものづくりの職人が結集して未来のものづくりを目指す、デジタルアルティザンのオフィス&スタジオ「DiGITAL ARTISAN STUDIO」の空間デザインを担当しました。デジタルアルティザン代表取締役の原雄司さんと岩沢兄弟の兄・いわさわひとしが対談形式で拠点づくりを振り返ります。

本当の意味でデジタルを使いこなせる人がまだまだ少ない。
アナログとデジタルの両方を使いこなす「職人」を増やしたい。

ーまず始めに、デジタルアルティザンを起業した背景を教えていただけますか。

原:はい、そうですね。日本も3Dモデリングや、コンピューテーショナルデザインなど、デジタルものづくりの技術はだいぶ普及しています。ただ、まだ本当の意味でデジタル技術を理解して使いこなせる人が少ないんですね。企業内でCADソフト使えますみたいな、オペレーター的な人がまだまだ多いのが現状。でも、これから必要なのは、アナログの職人でありながら、デジタル技術を使いこなすような両分野にまたがるデジタル職人です。そういう人材を発掘したり、目指そうと思う人たちを増やしたくて、共感いただいた孫泰蔵さん率いるMistletoeの出資も受け、デジタルアルティザンをつくりました。

デジタルアルティザン代表取締役 原雄司さん

ー企業としてはどのようなことをしているのですか。

原:デジタルアルティザンは、研究そのものをビジネスにする「ラボドリブン」ビジネスが主体です。日本や世界中の大学や企業の研究機関に眠っている、最新技術やアイデアを、掘り起こして集めて、組み合わせるとイノベーションが起こるはず。でもほとんどの場合、研究が終わるとそのままになってしまう。そこを僕たちが引き受けて、製品に近いレベルまで一気につくってしまう。日本は特にそうですが、モノがないと動かないというのがありますしね。つまり0→0.1の発明ではなく、0.1→1にする。研究から生まれた発明を、ビジネスに受け渡すためのプロトタイプをつくることにフォーカスした会社です。それらを担うデジタルアルティザンが集う、コミュニティがここです。

ー拠点としての「DiGITAL ARTISAN STUDIO」をつくろうと思ったのはどうしてですか?

原:以前は、出資会社のMistletoeが運営するシェアオフィスに入居していたのだけど、孫さんが突然、「オフィスいらないんじゃないか」ということになって(笑)(参考:日経ビジネス|オフィスと社員はもう要らない)。オフィスが無くなったので、一度は流浪のアルティザンになってみようかと。で、ものづくりコワーキングスペースFabCafe MTRLに一部間借りしたり、オンラインベースでやってみたけど、やっばり無理だったんですね。物理的にものをつくるには、物理的な場所が必要だと改めて実感し、オフィスを持とうと思いました。あと今後の狙いとして、マスカスタマイゼーション的な、個人に合わせてものづくりをするようなスタジオも創りたいという構想も生まれてきたのものあり、たまたまMistletoeが新たに始めるコミュニティラウンジの別フロアが空いていると聞き、場所をつくることを決めました。

新拠点でやりたいことは沢山あるけど、不確定要素ばかり。
そんなとき、空間はどうやってつくる?

ー今回の空間デザインを岩沢兄弟に依頼を決めたのはなぜだったのでしょう?

原:FabCafe MTRLを使っていて、そこの空間や家具がかっこいいと思ったのがきっかけですね。つくりたいイメージに近かったので。で、誰がデザインしているのか、と思ったら岩沢兄弟だということで、すぐにお願いしました。

いわさわ:そうだったんですね。ありがとうございます。プロジェクトが始まってからは、あっという間でしたね。

原:かなり短かったですよね。入居しようとおもったのが、昨年の10月くらいじゃないかな。それで、場所が決まって、年明けにはオープンしていたと思うから……。実際には依頼から竣工まで一ヶ月かかっていなかったかもしれないですね。それなのに、やりたいことはたくさんあって(笑)。僕は、「スタジオ」と「ショップ」と「ジム」という機能がほしかった。人を育てるには、OJT的にプロジェクトをやるというのが必要だと思うんですよ。24時間ジムのように、いつでも修練できるような場所があればいいなと思っていました。

ーやりたいことはたくさんあったところ、どう空間に落とし込んだのでしょう?

いわさわ:たくさん言われたけど、いったん言われたことを忘れるようにしました(笑)。で、極力「何でもできる場所」になることを目指してつくりました。例えば、この場所はもともと大学の教室みたいな場所だったから、手前から奥に向かって斜面のある床だったんです。でもそのままだと使い勝手悪いし、広いスペースがほしい要望なんだろうなということで、平たい床を舞台のようにどんと設置しました。

いわさわ:あとは、メンバーが集中して通常業務ができるような、こもれる場所もつくりました。あえて小屋のような設えにして、2階もつくって。特に2階の使い方は決めてなかったです。むしろ使い方は任せる!というか。昼寝なり打ち合わせなり、倉庫なり。使い始めたら勝手に使ってもらえるんじゃないかなと。

奥は執務スペース。2階は昼寝や打ち合わせなどのフリースペース

ー実際つかってみてどうですか

原:狙い通りです(笑)。2階は昼寝するメンバーもいるし。床をフラットにしてもらったことで、イベントスペースとしても使えています。毎回40-50人はいるイベントが週に1、2回は開催されていますね。

いわさわ:え!そんなに!!下の階(※Mistletoeのイベントラウンジは地下1階)にイベントスペースあるからいらないって聞いてたんだけどな。でも使ってもらえてよかった。

舞台上でイベントを開催する様子

原:イベントだけじゃなく、例えば、国内主要自動車メーカーのデザイナーコンソーシアムのジャパンオートモーティブインテリアデザイナーズ(JAID:ジャイド)の定期MTGもここでやっているんです。デジタルアルティザンがスーパーバイザーを担っているという縁もあるんですが、クリエイティブな発想をするのにここがいいということで、わざわざDiGITAL ARTISAN STUDIOを選んで来てくださっています。

本気でものづくりをする人たちの空間に必要なこと

ーなぜそんな気に入ってもらえたのでしょう?

原:もちろんオシャレな雰囲気も評価頂いているんですが、普通のFab施設よりも、実働しているイメージがあるからかな。現場が動いている感じも見れるし。というのはよく言われます。

いわさわ:きちんと「ものづくり」できる空間と機能はすごく意識しました。例えば照明とかも、ただオシャレにするなら、ハイダクでスポットライトがよいかもしれない。でも、実際にものをつくるとしたら、蛍光灯がベスト。均等な光じゃないと、判断が難しくなるから。

岩沢兄弟の兄・いわさわひとし

原:そうなんですよね。スキャンとかボディセンシングもしますので、光はすごく重要なんです。まさに均等な光が必要だから。でもこの場所だと、日中であればスキャンは光つけないでもできますね。

ボディライト付きの全身3Dスキャン機器

いわさわ:あと、職人たちが勝手にいじれるような場所にもしたかった。例えば、打ち付けやすい壁にしておくとか。気兼ねなく打ち付けられる、貼れるというのが大切だと思う。

壁は、打ち付けても気にならない素材

原:全体的に使い勝手はいいですよ。床下に収納もあるので便利だし。展示用什器もすごくよかった。今、入り口前に並べています。まだ、販売はしていないですが、ギャラリーだと誤解されて、全く関係ない人もフラフラよく入ってきます。あと、この高低差も気に入っています。イベントスペースとしても使いやすいですし。スクリーンを下ろせば奥部分は隠れるし、プロジェクターを投射できて使いやすいです。

いわさわ:よかったです。今度はぜひ、奥の2階部分から階段で降りてきてゲストが登場するーっていう、プロレスっぽいイメージでも使ってもらいたいです(笑)

床下収納スペース

入り口前に設置された展示什器

奥2階部分から眺めた様子。舞台手前と奥の高低差は、約70センチ

入口側から舞台を捉えた様子。奥の階段手前あたりでスクリーンが下ろせる仕様になっている。

執務エリア2階に繋がる階段。今後はイベント時のゲスト登場シーンを盛り上げるかも?

磨くのはデジタル技術だけじゃない。
アートにも理解あるデジタル職人が育つ場にしていきたい。

ー最後に、今後この場所で拡げていきたい活動などあれば教えてください

原:今後は、音楽とテクノロジーをかけ合わせたイベントを開催したいと思っています。というのも、僕はアートに理解のあるアルティザンというのにすごく興味があって。いまヨーロッパではアーティストのふわっとした要求を噛み砕いてものに落とし込めるアルティザンが再評価されているんです。デジタル技術という道具を使えるだけでなく、クリエイターの伝えたいことを読み解けることも大事なんです。だから、アートやクリエイションは大事にしたい要素。DiGITAL ARTISAN STUDIOでは、デジタル職人として技術だけでなく、そういった感覚も養える機会を創りたい。

もう一つは、製造業の人たちにも同様のメッセージを届けたい。デザインとかアートとか言った瞬間に「俺たちには関係ない」と食わず嫌いの感覚がまだあると思うんです。その部分を氷解し、新しい可能性を見つけてもらうために、どんどん製造業の人にもこのスタジオに来てもらってほしいと思っています。いま、そのための仕掛け作りも進めているところです。

対談時の様子

期間:2018年10月〜2019年1月
クライアント:デジタルアルティザン株式会社
全体設計、家具デザイン、アートディレクション:いわさわひとし
詳細設計、ディレクション:宮崎孝夫
ディレクション:いわさわたかし
撮影:ただ(ゆかい)
イベント写真提供:デジタルアルティザン株式会社

デジタルアルティザン株式会社

デジタルの職人を結集し、未来のものづくりを推進する、次世代ものづくり集団。「1から100を生み出すビジネスは数多く存在するが、1にも満たない0.1の技術や、アイディアからビジネスを生み出す取り組みはまだそう多くない。0.1を1とするビジネスプロトタイピングを行うことで新たな組み合わせによるイノベーションを実現できる」という考えから「ラボドリブンビジネス」を提唱。研究者・技術者・アーティストが持つ知見から、ビジネスのプロトタイプを生み出すことを目指している。また、デジタル分野の職人を結集することで未来に向けたデジタル技術のものづくりを追求するとともに、育成にも力を入れている。