カフェのホスピタリティはそのまま、店内に配信スタジオを構築したい!

FabCafe Tokyo|カフェ内配信スタジオ

空間デザイン、家具デザイン、映像・音響機材選定

人が集うカフェにデジタルものづくりマシンを設置し、クリエイターやアーティスト、企業などの活動をサポートしているグローバルネットワーク「FabCafe(ファブカフェ)」。その第一号店「FabCafe Tokyo」(東京都渋谷区)における配信スタジオのデザイン・構築を岩沢兄弟が手掛けました。

東京・渋谷にある「FabCafe Tokyo」。創業12年目を迎えた店舗の新設備デザインを担当しました。(写真提供:FabCafe Tokyo)

カフェのホスピタリティはそのまま、店内に配信スタジオを構築したい!

FabCafeは、3Dプリンターやレーザーカッターなどが使える「デジタルものづくりカフェ」の機能はもちろん、展示会、ワークショップ、イベント、パーティが開催されるクリエイティブなコミュニティとしても人気を博しています。

2012年の創業以来、世界各地にそのネットワークを広げ、現在ではアジア、ヨーロッパ、中米で10拠点以上を展開。全店での年間イベント数は1000回を超えます。特に第一号店であるFabCafe Tokyoは、コミュニティを支える旗艦店として、現在も活発にクリエイティブやものづくりをテーマにしたイベントが開催されています。

FabCafe Tokyoでのイベントの様子。カフェだけでなく、トークや展覧会、パーティ、ワークショップなど様々な形で活用されています。(写真提供:FabCafe Tokyo)

今回、FabCafe Tokyoから岩沢兄弟に寄せられた相談は「カフェの中に使いやすい配信スタジオ機能がほしい」というものでした。

行動制限を伴うコロナ禍を経て、リアル開催とオンライン配信のハイブリット型運営がイベントの主流になりつつあります。FabCafe Tokyoでも機材を揃え、オンライン配信に対応したイベントを開催してきましたが、空間・機材・運営のベストなバランスを見つけるのが難しかったとのこと。

カフェとしての良さは活かしつつ、使いやすい配信スタジオとは何か? その解決方法を一緒に考えることから、プロジェクトがスタートしました。

*FabCafe Tokyo からの要望

  • 映像音響の専門知識を持たないスタッフでも配信ができるようにしたい
  • 常設スタジオの機能を店内に持たせたいが、イベント時以外は機材を意識させない、カフェとして快適な空間であってほしい
  • 現在の音響設備ではマイクの音が聞きづらいので改善したい
  • 今回の改修をすることでカフェのワークフローに影響がでないようにしたい

カフェとしての居心地のよさ、営業しやすさは残し、新設備をつくることが本プロジェクトのポイントでした。(写真提供:FabCafe Tokyo)

「配信キット」「MCテーブル」「壁の造作」の3点で解決!

FabCafe Tokyoと話し合いを重ねつつ、岩沢兄弟が最終的に提案したのは、「配信キット」「MCテーブル」「壁の造作」の3点をつくることで、シンプルな配信スタジオを新設すること。

スタジオといっても、ステージと機材室が分かれていたり、店内にリモートカメラが何台も設置されているような大掛かりな設備ではありません。FabCafe Tokyoの内装デザインはそのまま、あくまでカフェらしく、日頃はスタジオであることも忘れるような空間を目指しました。

店内にさりげなく設置されたスタジオ機能……わかりますか?(写真提供:FabCafe Tokyo)

 

1. シンプルかつ収納できる「配信キット」

YouTube LiveやZoomセミナーなどのオンライン配信に必要な機材は、可動型の特製木製ボックスに収めた「配信キット」としてまとめました。極力シンプルに、複雑な設定や配線なしで使える機材を選定し、セッティングしました。イベント時は配信ブースとして活用でき、カフェ営業時には目立たない形で収納しておけます。

カメラ、カメラコントローラー、モニター、AVミキサー、エンコーダー、ワイヤレス送受信機などがまとまった特製の「配信キット」。FabCafe Tokyoのイベント規模、レイアウトにあわせた機材選定も岩沢兄弟が手掛けました。

キット内に配置されているAVミキサーは、なるべくわかりやすく、シンプルなインターフェースの機材を採用。パソコン無しでもライブ配信ができます。

電源コードひとつをとっても、カフェ空間に馴染むデザインでシンプルな方法を採用しました。運用の内容に合わせて、映像/音声、通信、電源の3本のケーブルを接続して使用します。

木製ボックスとは別にトランク型の登壇者スライド用キットも用意。こちらは、登壇者のスライドPCを接続して、PC画面を切り替えたり、配信画面と会場モニターの両方に表示するためのキット。

 

2. カウンターとしても使える「MCテーブル」

機材と並び、配信スタジオで重要なのは、出演者が座る空間です。今回は、カフェのカウンターテーブルを兼ねたMC用のテーブルをデザイン・制作しました。カフェ営業時にはハイテーブル席として、パーティやイベントではドリンクを提供するカウンターとしても使えます。配信時には出演者が並んで座ったり、テーブルを2分割してMCとゲストに分かれたニュース番組風のレイアウトにもできます。

オレンジの脚がポイント。制作したMCテーブル。壁を背にして出演者が座る想定です。テーブル下には業務用冷蔵庫を収納。

テーブルの天板には、人造大理石の端材からつくったタイルをあしらっています。使用した人造大理石は、パナソニックホールディングスによる「端材活用エコシステム開発プロジェクト」で岩沢兄弟が出会った素材。そのきっかけを提供したのは、FabCafeの運営元であるロフトワークです(詳しい経緯はパナソニックホールディングスの記事に掲載)。プロダクト製造の現場から生まれた端材を加工し、再び建材として使えるような形にリデザインする。

プロトタイプの過程では、デジタルものづくりマシンも活用しました。ものづくりの新たな可能性を探るFabCafeのコンセプトにも沿った素材を、空間のアクセントに備えました。

人造大理石の端材を活用した天板。白い部分は人造大理石で、端材の形状的に足りないパーツは木材で制作。(写真提供:FabCafe Tokyo)

 

カフェテーブルとして重要な写真映えもばっちり。余談ですが、FabCafe Tokyoのフードは素材にもこだわっていてとても美味しいのでぜひお試しを!(写真提供:FabCafe Tokyo)

右手前がMCテーブル、中央奥の木箱が配信キット。カフェ空間にスタジオ設備が馴染むようにデザインしました。(写真提供:FabCafe Tokyo)

3. 配膳窓を隠し、映像の背景にもなる「壁の造作」

手掛けたもの3つ目は、壁の造作です。これが一番わかりにくいところなのですが、意外と大事な仕掛けです。言葉ではちょっと説明しにくいので、まずは写真でご覧ください。一見、同じように見える写真ですが……。

一見普通の壁ですが……

パタ……

パタパタ……

シャキーン!!! ……配膳窓が現れます。

壁の板が動いているように見えるこの仕掛け、喩えるならば「観光バスのドア」のような動きをする機構を仕込んでいます。もともとあった配膳用の窓は厨房の中が見えてしまい、カフェ空間としても気になるところだったので、こんな提案をしました。映像配信時には扉を閉めることで、出演者の背景になるしつらえです。

みんなの「気持ちよさ」を大切に、静かなアップデートを。

お店だけではない場所、工房だけではない空間、リアルだけではない場の使いかた……。活動拠点をめぐるニーズは複雑になってきています。複雑な要望をそのまま落とし込むと、物理的な空間までガチャガチャと煩くなってしまうのが悩みどころ。どうしたらコンパクトに、使いやすく、楽しくアップデートしていけるのか。そんなことを考えつつ手を動かしていくFabCafe Tokyoの場づくりは大変楽しかったです。

空間も什器も大幅には変えないことで(でも裏側の工夫はしっかりすることで)、お客様はもちろん、スタッフの「居心地良さ」「気持ちよさ」はそのままに、機能の改善や空間の更新をすることを目指しました。柔軟に使っていただければ嬉しいです。

空間デザインはもちろん、場の使い方に合わせた音響・映像機材選定や、家具・什器のデザイン、デジタル技術との連携など、「こんなことできるかな?」というご相談があれば、岩沢兄弟までお問い合わせください。

店内のBGM用スピーカーとイベントマイク用のスピーカーを分けるなどの機材の調達・セットアップ調整も担当しました。(写真提供:FabCafe Tokyo)

  • 期間:2022年10月〜2023年2月
  • クライアント:FabCafe Tokyo(株式会社ロフトワーク)
  • 什器デザイン・制作:いわさわひとし、土田誠
  • 機材選定・ディレクション:いわさわたかし
  • 素材協力:パナソニックホールディングス株式会社
  • システムインストール:池田匠
  • 写真撮影:ただ(ゆかい) ※提供写真の記載があるカット以外