2022年12月16日、空間デザインユニット・岩沢兄弟は、「グッときたデザインアワード2022」(通称「g賞」)を発表しました。g賞は一年を通し、岩沢兄弟が「グッときた!」と感じた物事をデザイン視点で表彰するという、主観的かつ一方的なデザインアワードです。
審査にあたっては、岩沢兄(ひとし)と岩沢弟(たかし)が2022年に見聞きしたニュース、ブックマークしたもの、写真に収めたもの、心の片隅に記憶しておいたモノやコトの中から、兄弟間での厳正な審査のうえ、勝手に表彰しています。受賞者(物)の皆さま、おめでとうございます!
グッときたデザインアワード2022 受賞作品
【依代(よりしろ)部門】 ジザイ・フェイス
メディアアーティストの作品として発表された、“自由自在に遊べる人工身体部位”のコンセプトモデル。眼・眉・口・鼻・耳といった「顔パーツ」がそれぞれ、センサーやカメラ、マイク、スピーカー等として使えます。
テクノロジーを使ったコミュニケーション設計をする職業として、日頃から「依代(よりしろ)」(※)が大事だと思っています。例えばウェブ会議で人型の何かに話しかけることで関係性が変わる感じ。
この「ジザイ・フェイス」は機能や器官をバラして「福笑い」的に構成することができて、ちょっと不気味な感じがするところがいい。目を沢山貼ったりすると気持ち悪さと同時に可笑しみが出てくる。そんなところにグッときました。ぜひ実際に触ってみたいですね。(弟・たかし)
※「依代(よりしろ」:神霊が出現するときの媒体になるもの。
【よしよし部門】 なかよしうおよし
東急東横線・都立大学駅(東京都目黒区)すぐの商店街に誕生した駄菓子屋。公務員職を定年退職した店主が、商店街にもともとあった魚屋「魚由(うおよし)」の店舗を譲り受けて開業。店舗奥にはお菓子を食べられる場所、2階にはフリースペースがあり、地域の居場所として賑わっています。
「なかよしうおよし」があるのは、妻の生まれ育った地域。評判を聞いて家族で行ってみたら、親子連れで朝から賑わっていて活気があった。私設公民館のような使われ方をされているところもよくて、空間というか場づくりの感じも絶妙でグッときます。
店主によると、上の息子さんが建築家で、下の息子さんがアーティストとのこと。家族でプロジェクト的につくったというストーリーも興味深いです。実は僕も、定年後に家でテレビばかり見ている父が、駄菓子屋をやったら人と交流できるしいいんじゃないかなって思っていて。ただし「なかよしうおよし」の店主は本当に、駄菓子屋が長年の夢だったらしくて。やっぱり本人の「やりたい」って気持ちが大事だよな、そうじゃなきゃ実現できないよな……と理解しつつ、それでもこの絶妙な場づくりの感じはいつかやってみたいなと思います。(兄・ひとし)
【電波部門】 えのこじま凸凹ラジオ
東京都内の展覧会で展示されているのを見かけた、移動式ラジオスタジオ。そもそもは大阪府立江之子島文化芸術創造センター用につくられたものです。
グッときたポイントは、ラジオの形をした移動式ラジオスタジオというところ。形が機能を表しているのがいいですね。実際にFMトランスミッターを搭載していて電波をとばせるミニラジオ局として使えるようです。
僕は電波が好きです。とにかく電波を飛ばしたいという欲求があって、子どもの頃からラジオで遊んだり、カーステレオ用のFMラジオを飛ばすキットで遊んだり。そういう電波好きにとって今年見た電波系のヒットでした。目の前でしているおしゃべりが、どこまでラジオで届いて聞こえるかな? と、見えない電波を追いかけるような楽しみ方をしたいですね。(弟・たかし)
【車輪部門】 電動クローラユニット「CuGo」
テスト用電動クローラ(キャタピラー)ユニット。大動力機構を内蔵し、人が乗って走れる走破性、アルミフレーム外装による高いカスタマイズ性と耐久性を実現し、研究・事業開発用ユニットとして活用できるモジュールです。
この「CuGo」のグッときたところは、キャタピラーユニットを1個から買えるところ。筐体はセットになってなくて、何をどう組み合わせてどんな機械にするかをユーザー自身が考えるためのパーツなんです。農業用地などの不整地で、物の運搬や作業が楽になる技術を扱うハードウェアベンチャーが販売しています。
このユニットに乗せれば、プラカゴだって何だって野外でがんがん動かせるし、カメラをつけたり他の機能をつけたりと拡張性も高い。アプリケーションも自由に開発できて、割り切ったところがとてもいいなと思いました。僕自身もともと何かをつくるときに、製品をまるっと買ってからバラして一部だけ使うようなことが多いんですが、最初からバラで買って素材にしていいのはいいですよね。価格帯も「ちょっと買っちゃおうかな」って思える感じで、車輪好きとしては欲しい。買うかどうか真剣に悩んでいます。(兄・ひとし)
>CuGo
【ちっちゃい機材部門】 A-PRO-1
4K/60P対応のコンパクトなスイッチャー。4K映像のなかでズームやパンをして好きなサイズの映像を切り取ることができます。
同じような機能がついた機材は他にも何社か製造していますが、この「A-PRO-1」は市場価格が10万円以下で業務用機材としてはかなり安いというところがポイント。多機能な製品をつくるんじゃなくて、まず単機能の機材として開発して、少しずつできることを追加していく開発スタンスがいい。基本的にこういうちっちゃい機材にグッときます。
使う側にも工夫する余白がある製品って楽しいですね。(弟・たかし)
【最先端部門】 手動式自動販売機
コインランドリーの洗剤販売とか、トイレのティッシュ販売などで昔からよく見かける自動販売機。「手動式」という名前が表すように、電源不要なところがポイントです。物理的な仕掛けだけで、お金を入れてダイヤルを回すと箱に入った商品が出てきます。
今年、千葉市美術館のプロジェクトでガチャガチャを使いました。わかりやすくていいんだけど、僕としてはちょっとつまらないというか物足りなさがあって。次に何かやるなら「手動式自動販売機」で、小箱の中に廃材や端材が入っていて買えるような企画をしたいなって思っています。小さな小箱に入ったシークレット感、10円単位の価格設定ができるところにもグッときています。あと電源不要だからどこにでも置ける!
「最先端部門」と名付けましたが実際、最近いろいろなものが脱電動になってきています。先日とある工場に見学に行ったのですが、電力を使わずに位置エネルギー(傾斜をつけることによる重力)で動くベルトコンベアを使っていたり、扉も電動の自動ドアじゃなかったり。昨今の社会情勢や環境問題を受け、こういう仕組みのものってもっと注目されていくんじゃないかな。一周回って最先端の自販機。来年は買います!(兄・ひとし)
【工場見学部門】 明和電機オモチャができるまで展
アーティストユニット「明和電機」が千葉県柏市で開催していた展覧会。そんなに大きな規模ではなかったのですが、「工場」という設定で見せていて、社員証や組み立てバイト募集などのしかけが楽しい企画。「明和電機」はもともと土佐兄弟がはじめたユニットなので、僕たち岩沢兄弟としてはものづくり系&ダジャレ好き兄弟の先輩として勝手に尊敬しています。
企画としても面白いんですが、つくっているものを全部ちゃんと説明している点がよかったです。テクノロジーを駆使した洒落の効いた表現ばかりですが、それぞれプレゼンテーションをしないと伝わらないっていう自覚があるというか。しっかり伝えることで共感や理解を呼ぶ姿勢を見習いたいなあと感じました。
あと、もともとはオリジナル楽器を演奏することで作品発表していた人達が、コロナ禍を経てパフォーマンスなしで表現をみせていくことにシフトしている点もグッときました。発信の方法をアップデートしているというか。すごいですよね。今年は僕たち岩沢兄弟も、美術館や芸術祭での発表が続いたのでいろいろ学ぶべきことがあるなと感じました。(弟・たかし)
【お世話になりました部門】 美山有さん
最後は、兄弟二人からのノミネートで、グラフィックデザイナーの美山有さんです。とにかく遊びのあるデザインが得意。というか、一緒に本気で遊んでくれる人です。千葉市美術館つくりかけラボ「キメラ遊物園」のデザイナーを探していたときに、「はじめまして」と問い合わせしたのがきっかけで、ロゴからチラシ、グッズや作品のグラフィックまで幅広く手掛けてくれました。その後、瀬戸内国際芸術祭に出展した作品「鬼ヶ島ピカピカセンター」関連のデザインも美山さんです。
美山さんと一緒につくっていて面白いというか驚くところは、僕たちがぽろっと口にしたアイデアが本当に形になって出てくるところ。「キメラ遊物園」のチラシでは、点つなぎを入れたいとか、四角形のようで実はちょっと歪んだ形にしたいとか、角を折らないと読めないQRコードをつけたいとか思いつきでガーッと話したんですが……全部盛りで実現してくれました。普通は印刷会社に敬遠されそうなややこしいオーダーも、ちゃんと設計図をひいて交渉して進めちゃう。もともと建築を専攻していた強さがあるのかもしれません。しかも「キメラ遊物園」のチラシは本当に好評で、アートの世界では無名な僕たちの企画がつくりかけラボの年内最高来場者をカウントしたのも、インパクトの強いチラシのおかげだったかもと思っています。
何より、アイデアを一緒に面白がりつつも立ち止まるべきところでは立ち止まってくれるところがいいですね。アイデアを出し合うときって、くだらない意見も照れずに言い合えるような場が大事だと思うんです。卑下して笑いにしたり、おもしろマウントとったりするんじゃなくて、思いつきを真剣に試してみて、違うねとも言えることが重要というか。そういうことができる稀有なデザイナーです。これからもよろしくお願いします!(岩沢兄弟)
グッときたデザインアワード2022 総評(岩沢兄弟)
基本的にグッとくるものって、毎年変わらないんだなと感じました。どれも買いたい、欲しい、やってみたい! 触り尽くしたいし、何かこれでつくってみたいと感じたものばかり。アイデアにしても製品にしても、材料となるようなものが好きだしグッとくるんだなと改めて気づきました。(兄・ひとし)
2022年は自分たちが作品を発表する側としても活動した年だったので、世の中でさまざまな表現を発表している人たちの活動に対して一層感じることが多かった1年でした。あと、岩沢兄弟がつくったものにもグッときてくれている人が沢山いるといいなぁと思いました。(弟・たかし)
毎年「グッときた」を振り返るたびに、ものをつくる自分たちの興味や意識、課題なども見えてきます。来年はどんな「グッときた」に出会えるか、楽しみにしています!
*ご紹介した受賞作品は岩沢兄弟が一方的にノミネートし、勝手に褒めたたえたものです。ご了承ください。g賞に関するご要望・ご意見は岩沢兄弟のお問い合わせページまで。