アートにおける人材育成や資料のアーカイブ、アートプロジェクトのイベントスペースとして利用してきた「ROOM302」の一画を、配信スタジオ「STUDIO302」へリニューアル。

アーツカウンシル東京|配信スタジオ「STUDIO302」

空間デザイン

[対談] アーツカウンシル東京 森司さん×岩沢兄弟
配信スタジオ「STUDIO302」とこれからの「スタジオ」の可能性

公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京は、これまでアートにおける人材育成や資料のアーカイブ、アートプロジェクトのイベントスペースとして利用してきた「ROOM302」の一画を、配信スタジオ「STUDIO302」へリニューアルしました。

配信スタジオの新設、壁面とキービジュアル制作、アーカイブエリアのリニューアルの3本柱で進められた、「STUDIO302」の変身計画。そのなかで岩沢兄弟は配信スタジオの新設を担当しています。

本企画のプロジェクトオーナーである、アーツカウンシル東京 事業推進室事業調整課長/東京アートポイント計画 ディレクター 森司さんと岩沢兄弟が対談形式でプロジェクトの振り返りと、これからの「スタジオ」の可能性についてお話ししました。

 

アーツカウンシル東京|STUDIO302

インタビュー当日は感染対策もかねてアクリルパネルを立てて。

アート人材のための共通言語を鍛える。
トレーニングの場であり情報発信拠点だった「ROOM302」

「ROOM302」の始まりは約10年前。東京都千代田区にある、元中学校を改修してつくられたアートセンター「3331 Arts Chiyoda」の一室を借りたことでスタートしました。

―ROOM302はもともとどんな場所として使っていたのですか?

森司さん(以後:森):「人が集って勉強できる場所」ですね。私たちは「Tokyo Art Research Lab」というアートプロジェクト人材を育てるスクール事業を展開しています。以前から50人ぐらいが集まって学ぶ場を持つことの可能性を感じていて、中間支援組織が場所を持つことはマストだろうと考えていました。

いわさわ たかし(以後:たかし):確かにROOM302開設以来、様々な学びのプログラムを開催されてきましたよね。でも、どうしてそう考えたんですか?

アーツカウンシル東京・森司さん

アーツカウンシル東京・森司さん

森:私たちのようなアートプロジェクトの中間支援をする立場の仕事は、「プロジェクトを自らつくろうと思う人たちをつくる」ことなんです。つくる技術をまだ持たないけれどやりたい気持ちはある人たちに、「つくりたいならやってみよう」と伴走しておせっかいするというか。

アートプロジェクトを育てるのに重要なのは「流動性の担保」です。最初のチームが3人で始まり、そのままの3人で終わる。じゃなくて、3人から5人に増えたり、5人からまた3人に減ってもいい。「やめることも始めることも、自由度がある」状況をつくることが持続する活動になる過程で必要なんです。そのためには、アートプロジェクトをマネジメントするための「共通言語」が必要。そのためのトレーニングの場を開き、情報発信してきたのが「ROOM302」です。

共通言語を鍛えることによって、アートプロジェクトの共通ルールを作るという大きな野望もありました。その雛形は医療チームです。ドクターやナース、薬剤師、技師など色々な役割の人たちが、それぞれ違う役割から集っていても、知識の基本は一緒ですよね。だから、相互乗り合いができる。アートプロジェクトの現場でもあちこちのリーダーやマネージャなどの人が「企画をやるぞ」って言うと、わーっと集まって形になり、終わったら散っていくような。そういうスペシャリストチームみたいな文化の担い手を育てたいと考えて人材育成事業を続けてきました。

 

コロナ禍を契機にリニューアル。
「ROOM302」から、配信スタジオ「STUDIO302」へ変身。

ROOM302オープンから10年後の2020年春。新型コロナウイルス感染症の拡大によって、あらゆる三密活動が停止せざるを得なくなりました。文化事業も大きな影響を受け、多くの活動を一時停止せざるをえない状況に。ROOM302からSTUDIO302への変身計画は、そんな最中である緊急事態宣言中から準備を始め、2020年6月24日にオープンしました。

― なぜ、配信スタジオをつくろうと思ったのですか?

森:コロナ禍が来て、みんな動けなく集えなくなりましたよね。今まで通りのイベントスペースとしては使えない。でも、心おきなく喋れる場所は必要だろうと。それなら配信スタジオに変えてしまおうかと考えました。何かの変革期って文化にとってはチャンスでもあるんですよ。やばいときだからこそ動かないといけない。

― 「STUDIO302」をオープンしてみていかがですか?

森:アートプロジェクトを運営するチームやアーティストからも好評で人気ですよ。外部に向けた貸スタジオではなく、あくまで事業に関わる人達が使う形をとっているのですが、問い合わせが殺到しています。私自身ですら、予約できないほど(笑)。アートプロジェクトにとって、発信できる場というのは、たとえそれがオンライン上であっても最大の活動拠点なんですよ。で、それを確保し、提供したことが良かったんでしょうね。完成してすぐ6月〜7月は試運転的に使ってみて、8月以降からは共催しているプロジェクトチームやアーツカウンシル東京の他の部門とも共有しています。

アーツカウンシル東京|STUDIO302

完成した「STUDIO302」配信スタジオ。岩沢兄弟が空間・映像・音響機器の設計・施工を担当。音楽教室だった構造を活かし、教室奥の小上がり部分を配信スタジオエリアにした。

 

配信スタジオ内のブース。4人がけ、それぞれにマイクスタンドが用意されている。

 

利用者が自由にいじれるよう、あえてむき出しになっている配信機材。初心者から機材になれた人まで、それぞれのレベルで使いこなせるような想定で機材を導入した。

 

いわさわたかし作のスタジオ記録カメラ機能を持つ「トルゾー君」。客席代表としていることで、スタジオ側の目線を集める役割。

 

配信スタジオ以外にも、室内の本棚(アーカイブエリア)と外壁も他のクリエイターチームによってリニューアルされている。グリーンバックをイメージして緑の漆喰で描かれた牛の壁画は、美術家・関川航平さんによるもの。

 

入り口にはSTUDIO302 ロゴとステートメント、インフォメーションボードも設置。こちらも関川航平さんによる制作物。

使い倒せる「スタジオ」が、
使い手のやってみたい欲を引き出す「新しいツール」になる。

STUDIO302で挑戦したのは、今の時代ならではの「スタジオ」への暫定解。一つは、表現者の「新しいツール」として配信・収録を使いこなせるようにできていること。もう一つは、時代や使い手の成長に合わせて柔軟に更新できるような仮設的な空間設計になっている点です。

― どうして岩沢兄弟に配信スタジオ制作を依頼したのでしょう?

森:従来のスタジオだと、人と人の間に物理的な距離があります。出演者の入るブースがあって、エンジニアの部屋があって……という空間構成では、上下感が生まれてしまうと感じていました。STUDIO302はクリエーションの場なので、もっとフラットになれるやわらかさが欲しかった。それでいながら、配信設備は十分に整っていて、拡張性もある状態にしておきたかった。お二人にはそんな新しいスタジオづくりを、託せると感覚的に思ったんです。

たかし:ありがとうございます。

いわさわたかし

たかし:僕は専門が映像や音響です。それこそ配信ディレクターとして活動してきたので、STUDIO302では主に機材導入を担当しました。「どんどん触って、どんどん設定変えられる」ということと、「簡単に使える」ことが両立するバランスを考えました。

従来のスタジオって、出演者の他に専属のオペレーターがいて操作する形式が一般的なんです。だけど、コロナ禍でみんなが家でZoomを始めたとき、1人でしたよね。今の世の中的にも、誰かに頼むより自分で配信することを選ぶ人が増えている。そこを見ないわけにいかない。それに、できることを制限しない方が、想像しやすくなるとも思ってて。一方で、思い切りリッチに配信したい場合は、それもできる設備を用意しておけば、プロの映像音響の人間が必要とされ、働く場所も出てくるかなと考えました。

― これまでのスタジオだと利用者は「わからないからプロにお任せ」と発想しがちだったけど、「自分でもできそう」と思えるスタジオは面白いですね。

森:従来でいうスタジオを簡易化というか、ドレスダウンしている訳じゃなくて、映像をつくったり、コンピュータをゴリゴリ使っている人たちが、「これぐらいあるといいな」って感じる機材が揃っているイメージです。いち個人が持ってると「贅沢だな〜」と言われるぐらいの設備。そういうものを岩沢兄弟のおふたりに期待していたし、実際にできていると思います。
そして私は、そんな人たちがここで燃えて使われるためには何ができるかということに興味があって。STUDIO302は、アートプロジェクトが次のフェーズに進むためのクリエーションの現場になるだろうと思っているんです。仮設性があるけど仮設ではないというか。

今回選定した配信スタジオ用機材の一部。

― 仮設性があるけれど仮設ではない。というのはどういうことでしょうか?

森:この空間、工事現場で使うような単管パイプやベニヤ板をわざと使っているので、はたから見るとすごく「仮設感」あると思うんです。ただ、役割としてはまったく仮設じゃない。

いわさわひとし(以後:ひとし):仮設感って「ここ壁なければいいのに」という違和感が空間に残ってるいて、「構造的にしょうがないんですよ」と諦めてる感じですよね。僕としてはそういうのは現場で解消しようよって思ってるし、今回ちゃんと解決したつもりです。

いわさわひとし

 

たかし:演出として「仮設感」はあったほうが良いと思ったんですよ。急いで作りました感というか。でも、このまま使おうと思えばずっと使い続けられる。そういう意味では、本当の仮設じゃないんですよ。レベルアップしたければここを土台に拡張もできるし。

ひとし:素材も「仮設感」は意識して、今回はあえて単管と板材を使いました。バラしやすくて拡張しやすいからです。単管は、現場で微調整できるのもよかった。空間的にしっくりくる場所を探し続けられたことが、さっき話したズレの解消にも繋がりました。実は今回初めて単管使ったんですけど、僕にあってるな〜とも思いました(笑)。

森:だから、仮設というよりか暫定解ですよね。現時点での一つの解。だけど、次がある。そういう意味では出発点でもあって。実際は使ってみないとわからない。

基本設計後、現場で実際の空間構造と向き合い微調整しつつ組み上げていった。

― なるほど、仮設ではなくて暫定解。使いたい方向にどんどん実験していける遊びの部分の大きさを感じました。

たかし:これって、体験設計みたいな話なんです。本来はコンテンツのことを考えなきゃいけないのに、従来のスタジオの多くは「施設管理」が立ちはだかっている。設備からの制限と使い方の使用制限があまりにあるから、中身やそこでつくられるべきものについて考えられていないことも多いと思うんです。もっと使い方、表現の可能性があるのに、開かれてないものがまだまだある。施設をやわらかくつくることで、使用者の体験を変え、思考も変えられたらいいなと考えています。

森:実験をするようにたくさん使ってくださいいうのは、つまり「ラボ」ですよね。「スタジオ」という場所のラボ。アートプロジェクトや文化事業って、物事を使い倒してからしか表現が育たないので私自身はこのSTUDIO302をフルスペックで使い倒した先が見たいです。だからいろいろな人に来て使い倒してほしい。そうすると、この空間の可能性がもうひと回り変わると思うんですよ。

たかし:そうですね。そういう意味では今回「スタジオ」の更新ができたかな、と思います。

 

― これから「STUDIO302」で実験してみたいことはありますか?

森:私がしたいのは、こうやって話していることを、聴覚障害や視覚障害のある人にもストレスなく届く配信サービスです。UDトーク(※ 主に聴覚障害者とのコミュニケーションを、パソコンや携帯電話を使って行うためのソフトウェア)を入れて文字起こしをして、さらに手話通訳者に入ってもらったり、多言語対応とれるようなとこまでやったりして。来年までには、そういった配信が当たり前にできるようにしていこうと思っています。

たかし:そういったアクセシビリティに関しては、ポジティブに社会還元しようと動くプログラマーたちも生まれてきていて、いいですよね。UDトークもZoomと連携できるようになったりと、ソフトウェア側も急激に進化してるので、森さんの目指すことは割とすぐにできそうな気がします。で、そういったニーズがあるときに「出演者それぞれの音声をバラバラに録音できているので変換が簡単ですよ」と言えるだけで可能性は変わるな、と予測はして、STUDIO302もしっかり技術的な下地は用意しています。

― 森さんの計画が実現すれば、これまで以上に一緒にアートプロジェクトを実践したり、学びあえる人たちの多様性が広がりそうですね。ありがとうございました!

クライアント:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
空間・家具デザイン、施工:岩沢兄弟
音響・映像機材導入:岩沢兄弟
デザインサポート:土田 誠
機材導入サポート:池田 匠
竣工:2020年6月
撮影:ただ(ゆかい)、中田一会(きてん企画室)

公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京

新たな芸術文化創造の基盤整備をはじめ、東京の独自性・多様性を追求したプログラムの展開、多様な芸術文化活動を支える人材の育成や国際的な芸術文化交流の推進等に取り組みます。また、2020年に向けて、文化プログラムを牽引するプロジェクトを展開していきます。
https://www.artscouncil-tokyo.jp/