偶然生まれる言葉と遊ぶマシーン

あそことば

私たちは、たいていのものに名前がついている世界に暮らしている。新しく生まれるものやサービスには名前が付けられるけれど、石を見たときに「いし」以外の呼び方を想像することは難しい。

岩沢兄弟は「ものと遊ぶ」ような活動を続けてきた。そこから「ものを使って言葉と遊ぶ」ようなこともできないかなと考え、つくってみたのが「あそことば」だ。

「あそことば」の仕組みはシンプル。全自動麻雀卓の麻雀牌に一文字ずつひらがなを印字し、プレイするごとにランダムな並びの言葉が現れるようになっている。そこから想像力を巡らせ、言葉と戯れるためのマシーンだ。

ルールの中で現れる「偶然」は楽しい

現在ではなかなか機会も減ってしまったが、辞書や電話帳をめくるとき、隣り合う言葉から文章(のようなもの)を見つけたことはないだろうか。五十音順や画数など、検索性を上げるためのルールによって並んだ言葉から、意図とズレた言葉が現れる体験はなかなか楽しい。

“ぐらりと クラリネット くらわす”
“イマージュ いまいましい いまがわやき”

日頃、何気なく言葉を発する際にも、前の語が次の言葉を連れ立ってくるような場面があるし、キーボードやスマホでチャットをするときも、予測変換などの機能が手伝って惰性で書いている節がある。

そういった「ルール」や「機能」が意図せず言葉を連れてくるような、偶然を生み出す状況をつくりたくて、「あそことば」のアイデアが生まれた。

辞書をながめているとなんだか面白い文章にでくわすことがある

 

全自動麻雀卓で言葉と戯れる

全自動麻雀卓を使う良い点は、「麻雀牌を混ぜて並べる」という、そもそもランダム性を生み出すために考え抜かれたマシーンだというところ。あと、文字数(雀牌の数)が機械側で規定されるのもいいし、物理的な重み(言葉の重み!)が感じられるのもいい。

制作にあたっては、全自動麻雀卓を製造する企業に問い合わせし、卓のほか、印刷前の専用雀牌を特別に売ってもらった。文字は一つ一つ表情が違うほうが楽しいので、グラフィックデザイナーの美山有さんに依頼し、岩沢兄弟でプリント。

麻雀卓のボタンを押すと、13個のひらがなが並ぶというシンプルなマシーンである。でもその中から単語を探したくなるし、並べ替えるなかで言葉を見つけられると嬉しい。見つからないと妙に残念で新語を編み出したくなる。

見た目は完全に麻雀卓。ひとりでも遊べる。

「遊び方」はまだない

「あそことば」の遊び方は自由。あえてゲームルールは決めていない。これから遊ぶ人と一緒に考えたらいいかなと思っている。

ともあれ、最初にランダムな手牌が配られることがポイントだ。文章がつくれそうな文字数(13文字)を目の前にして、その中から並べ替えて単語をつくるもよし、通常の麻雀のように牌を山からツモって文章を作成するのもいいかもしれない。

言葉に触れる体験に、ちょっとした仕掛けを加えてみるという実験は、これからも続けてみたい。まずは麻雀卓本体の設えも変えながら、より多くの人に体験してもらえる仕組みをデザインしていくつもり。

 

タイポグラフィデザイン:美山有

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