日常はスポーツと文化の活動拠点。非常時は地域の防災拠点に。茨城県神栖市にオープンした新しい公共施設「かみす防災アリーナ」の家具デザインを担当しました。

神栖防災アリーナPFI|かみす防災アリーナ

家具デザイン

日常も、災害時も。みんなが使いこなせる家具をつくる。

もしものときに、いつものところへ集まろう。2019年5月末、茨城県神栖市に開設した新たな公共施設「かみす防災アリーナ」は、日常はスポーツ・文化の活動を通じて市民が交流し賑わい、災害時には1万人が避難できる防災施設です。

(撮影:後藤晃人)

「いつも」と「もしも」。

どちらの時も、心地よく使いやすい空間にするにはどうしたらいいか。

岩沢兄弟は、本プロジェクトチームの家具デザイン担当として、遊び心と利便性を同居させたオリジナル家具をデザインしました。

(撮影:後藤晃人)

コンテナ・車輪・パラソル・ホワイトボード。
多用途なアイテムを活用し、家具を中心にあらゆる空間をつくりだす。

(撮影:後藤晃人)

今回のポイントは、

・普段は、あらゆる世代の人々が集う、ひらかれたコミュニティエリアになる
・非常時は、防災拠点として市民の避難場所になる

ということ。

非常時にしか使えない備品がかさばっては、日常使えるスペースに制約がでてしまう。
しかし日常使うものしかないと、非常時の防災拠点としては、成立しない。

そこで私たちが提案したのが、「プラコンテナ」と「車輪」を用いた家具です。

(撮影:©️中山保寛)

「プラコンテナ」と「車輪」を家具に取り入れる

プラコンテナは、収納に使われる工業製品。

日常では上記写真のように、クッションを重ねて、イスやソファとして使用。
非常時に必要な備品を中に収納しておいても、邪魔になりません。
また、業務用のプラコンテナは、価格も安く、供給も安定しています。
壊れたり経年劣化しても、簡単に代替品を購入できます。

(撮影:後藤晃人)

軽いので、子供でも持ち運べます。コンテナを重ねて台にしたり、壁にしたりと、使い手が自由に、空間を作り出せます。

(撮影:後藤晃人)

もちろん、プラスチックですから、水にも強い。桶代わりにして水を運んだり、溜めておいたりすることもできます。災害時には様々な形で使用できます。

また、今回デザインした家具には、ほぼすべてに車輪をつけました。誰でも簡単にレイアウトを変更できることで、日常のイベントレイアウトでも、非常時の簡易ベットや仮設避難エリアづくりでも活躍するはずです。

屋台はコミュニティのメディア(媒介)になる

プラコンテナと車輪を組み合わせた屋台も作りました。

(撮影:後藤晃人)

日常は、イベントの受付やインフォメーション、仮設の店舗、子どもたちの遊び道具として。棚として収納されたプラコンテナは、収納に使えるだけでなく、引き出してイスとしても使えます。

そして非常時は、災害時の情報集約場所、受付、配給用台車として。その時に必要な呼びかけをスムーズにできる道具に変身します。

パラソル部分は差し替え可能なので、のぼりを立てて、目立たせることもできます。

(撮影:後藤晃人)

屋台を拡張した、最小単位の「ライブラリー」

屋台機能を取り入れた、個室本棚もつくりました。

日常は脇の本棚をつかった公共ライブラリーとして。あるいは、コンテナを積み重ねて、仮設カウンターに。非常時は、コンテナを同じ高さに並べればベッドにもなります。

(撮影:後藤晃人)

ホワイトボードは、誰でも使える掲示板

普段は子どもたちの遊び道具になるホワイトボードも、必要に応じて、インフォメーションボードとして活用できます。

(撮影:岩沢仁)

(撮影:後藤晃人)

家具が自由だと、空間の使いみちも自在になる。

コミュニティスペースと、自由に使える家具の相性は抜群。使う人たちにどんどん新しい使い方を編み出していただければ嬉しいです。

(撮影:後藤晃人)

長期プロジェクトにオススメの、リアルスケールプロトタイピング

公共施設開発のような大型プロジェクトとなると、構想開始からオープンまで数年間の月日がかかることも少なくありません。

建物では模型などによるシミュレーションが中心になりますが、より小さい規模の家具の場合は、リアルスケールプロトタイピングをすることで、想定ユーザーと一緒に使ってみる機会を早い段階で設けてみることをおすすめします。

今回のかみす防災アリーナでは、竣工2年前の2017年、市民とともに施設をつかいこなす参加型プロジェクト「かみすライフスタイルラボ」を実施。

岩沢兄弟は、コンテナ屋台シリーズをプロトタイピングし、工事中の神栖中央公園で想定ユーザーに使ってもらいました。

※ かみすライフスタイルラボ(https://kamisu-lifestyle-lab.tumblr.com/

(撮影:岩沢卓)

子どもに引っ張ってもらったり、絵本を入れてみたり、お店のように振る舞ってみたり。

シミュレーションを兼ねて、実際のユーザーとなる市民のみなさんと一緒に遊んでみる。そうすると、自分たちだけでは見落としてしまいそうなつくりかた、使い方の課題を抽出できます。同時に、コンセプトの核の部分を掘り下げることもできました。

受賞歴

2019年度グッドデザイン賞 受賞
第53回日本サインデザイン賞 銀賞
いばらきデザインセレクション2019 デザインセレクション部門 選定

クライアント:神栖防災アリーナPFI株式会社
施工者:株式会社白英社
ディレクター:清水建設・梓設計 設計企業共同体
デザイナー:株式会社OKデザイン室
インテリアデザイナー:株式会社フィールドフォー・デザインオフィス
空間デザイン:岩沢兄弟
照明デザイナー:ぼんぼり光環境計画株式会社
ランドスケープデザイナー:古谷デザイン株式会社
竣工:2019年5月31日
撮影:後藤晃人

神栖防災アリーナPFI株式会社

地域の防災拠点「かみす防災アリーナ」の設計・建設から運営までをPFI事業として請負っている。神栖市の委託を受け、アリーナやプール並びトレーニング施設や音楽ホール、コミュニティ施設などを備え、防災拠点を兼ねる施設の運営に取組む。